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雄町パーフェクトガイド
雄町Q&A
雄町に関する知識をQ&A形式で出題。あなたはいくつ正解できますか?
雄町米とは
1859年に発見された、日本最古の混血のない原生種である「雄町」*。酒造業界の4大酒米*といわれる「山田錦」や「五百万石」をはじめ、現在生産されている約100種類の酒造好適米の多くは交配種であり、そのほとんどに雄町の血統が引き継がれています。
つまり雄町米は酒米の元祖。明治時代には酒米の最優良品種として国内各地で使用されはじめ、昭和初期の清酒品評会(現在の全国清酒鑑評会)では「雄町でなければ賞が取れない」とまで評されていました。
しかし雄町は他の酒米に比べて背丈が高いため倒れやすく、病害虫に弱く、収量も少ないという栽培の難しさから、発祥の地である岡山県以外での生産がほとんど普及していません。現在でも生産量の9割以上が岡山県で、全国の酒蔵に向けて出荷されています。
*注)1859年に備前国上道郡高島村字雄町(現:岡山市中区雄町)の農家である岸本甚造(きしもとじんぞう)氏により発見され、1866年に「二本草」と命名された。その後、全国へ普及していくなかで、育成地の名称から「雄町」と呼ばれるようになった。
*注)4大酒米とは、山田錦・五百万石・美山錦(みやまにしき)・雄町のこと。
酒造好適米とは日本酒造りのために栽培された米で、食用米とは区別されています。食用米よりも大粒で、心白と呼ばれる米の中心部分が大きくなっているのが特徴です。
心白は隙間が多くデンプンが多い構造のため白く不透明となっており、その隙間に麹菌の菌糸が入り込んで発酵を促進させるので、醸造に有利になります。
また心白の外側の部分はタンパク質や脂質が多く、食用としてはもっちりとした旨味という長所になりますが、酒米としてはタンパク質が多すぎると酒に苦味や雑味をもたらすこともあります。そのため日本酒造りでは米の品種や精米の割合によって味を調整しており、その精米歩合が酒の品質やランクにも影響しています。
※注)酒造好適米(しゅぞうこうてきまい)は略して酒米(さかまい)と呼ばれるが、酒造好適米かどうかに関わらず、日本酒造りの原料米を酒米と総称する場合もある。食用米を使って造られる酒もあり、食用米が酒造りに適していないというわけではない。
同じ酒造好適米でも雄町と山田錦では、上の図のような特徴の違いがあります。
雄町は長い芒(のぎ)をもち、粒が大きく心白が球状になっており、柔らかいためもろみの中で溶けやすく、濃醇な味の酒が期待できるといわれています。
戦時中の食糧難により生産量が減り、戦後も栽培の難しさから作付面積が約3haまで落ち込んだため、「幻の酒米」といわれた時期もありましたが、岡山県内の酒造会社の要望により、年々生産量を回復させてきました。
また近年の傾向として、日本酒の原料である米に強いこだわりを持つ蔵元が増え、全国から雄町を求める声が高まったことから入手しづらい状況が続き、再び幻といわれた時期もありました。しかし生産者や酒蔵の努力もあり、現在は安定して生産されています。岡山県南を中心に栽培されていますが、酒蔵によっては栽培地まで指定した酒造りにこだわっているところもあります。
また、他の酒米に比べて収穫時期が1か月ほど遅いため、新酒が出るのは毎年12月から1月初旬頃になっています。
赤磐(あかいわ)
雄町と歴史の深い赤磐地区を含めた備前地域。
砂上地で朝晩の寒暖差が大きく、県下屈指の雄町栽培の好適地であり、全国的な認知度も高い。減農薬等の条件がある特別栽培米にも取り組んでいる。「赤磐雄町」という名称は地元の利守酒造により商標登録されている。
高島(たかしま)
「雄町」という名前の由来にもなった、発祥の地である岡山市中区雄町周辺のエリア。他の酒米は作らず、雄町一本に絞って生産しており、減農薬等の条件がある特別栽培米が7割以上を占める。「高島雄町」という名称は、高島雄町米振興会により商標登録されている。
真庭(まにわ)
県南よりも気温が低く雨が多いため、雄町の作付けが難しいとされていた県北エリアだが、地元の酒蔵の要望により、2014年から契約栽培を開始。栽培方法を工夫して、現在では仕込みに必要な量を生産できるようになっている。
※その他に、藤田(ふじた)、建部(たけべ)、倉敷(くらしき)など岡山県内各地で栽培されています。
雄町米と酒づくり
「古人(ふるひと)の 飲(たま)へしめたる 吉備の酒 病めばすべなし 貫簣(ぬきす)賜(たば)らむ」。
丹生女王(にふのおおきみ) 『万葉集』巻四 五五四
万葉集に「吉備*の酒」と歌われるほどに古くから、岡山では酒造りが行われていました。酒造業が広く発達した江戸時代には、酒造りの総責任者である杜氏(とうじ)が率いる集団が各地に発生して技術を競うようになり、岡山の備中杜氏が、明治40(1907)年の「第1回全国清酒品評会」で第1位に入賞したことから、その技術の優秀さが日本全国に知れ渡りました。
また岡山は年間の日照時間が長いことから「晴れの国」と呼ばれており、瀬戸内海沿岸特有の温暖な気候と三大河川がもたらす豊かな水、肥沃な大地という環境の下、9~11世紀頃にはすでに米どころとして名を馳せていました。
「旨い米と水、醸造技術」が揃っていることで、酒造りは主要な産業のひとつとなり、とくに明治時代以降「雄町米」が酒造好適米として高く評価されてきたことで、酒米産地としての名を上げました。
栽培が難しいとされる雄町米ですが、お酒にするのも難しく、「蔵泣かせ」「杜氏泣かせ」ともいわれるほど。柔らかいために精米時に欠けてしまったり、溶けやすい米は理想どおりに扱うために、きめ細かい配慮や技術が必要とされます。
かつては大吟醸酒*に用いられることが主流でしたが、雄町特有のふくらみのある味わいを活かした純米酒なども増えており、現在ではそれぞれの酒蔵ごとに、個性豊かな風味のお酒が造られています。
日本酒の主な原料は、米と麹、水。「酒造りは原料が命」といわれるように、米の質が酒の質を左右するといっても過言ではありません。雄町には、雄町にしかない味がある。それを熟知し、魅了され続けているのは、他の誰でもない杜氏なのではないでしょうか。
また「名酒は良い水から生まれる」といわれるように、水の質も重要です。岡山は県北の山地を水源とする三大河川のおかげで良質の水が豊富で、環境庁の「全国名水百選」に選ばれた湧水があり、県内外の酒蔵が水質の良さを認めています。「全国名水百選」のひとつには雄町米発祥の地にある「雄町の冷泉」が挙げられており、その水を醸造に用いている酒蔵も多くあります。
*注)現在の岡山県を含む古代日本の地方国家
*注)吟醸酒と純米酒の違いを一言でいうと、醸造アルコールが含まれているかどうかの違い。純米酒は醸造アルコールを含まず、米と米麹だけで造っているので、米本来の旨味や香りが楽しめるといわれる。
オマチストと
おかやま雄町と地酒の祭典
雄町米で造った酒の魅力として、丸みのあるふくよかさや昔の米らしい野性味、幅のある複雑な味わい、熟成で化けるうまみといった様々な特長が挙げられます。それに加えて蔵元の個性があり、ワインのように年によって質が変わる面白さもあります。そんな「雄町の酒」を偏愛し、自らを「オマチスト」と名乗るファンたちが存在することからは、日本酒を自由に楽しむ特別感が感じられます。日本酒と一言でいっても、バリエーションは多種多様。自分好みの、個性的な1本を見つけてみてはいかがでしょうか。
地元である岡山では2013年から毎年、雄町米のお酒や地酒が一堂に会する「おかやま雄町と地酒の祭典」というイベントが行われています。コロナ禍以降はオンライン開催で乾杯や蔵元インタビューの動画配信という形になり、岡山に来るのが難しい方でも気軽に参加できるようになっていますので、興味のある方はぜひご覧いただければと思います。
岡山酒図録では、日本酒ビギナーにも飲みやすい1本からオマチストも唸る銘酒まで、おすすめの日本酒を取り揃えております。ぜひ、お試しいただければ幸いです。